金属製のメッシュ、網の目といっても必要なのは、ごらんになっても穴が開いているなんて全然思えないほどの、細かい小さな網の目なのです。
入れ歯の吸い付く性能には問題がないどころか、かえって吸着力はアップしているくらいです。
実際、トゥルーティッシュの場合には、口蓋に張り付いている部分、入れ歯の床と呼んでいますが、床の厚さが、0.3ミリから0.4ミリとたいへん薄くなっています。
なんであれ、できれば薄いほうがいい、この摂理に反対の方はいらっしゃらないでしょう。
普通の入れ歯だと、床の厚さが、3ミリから5ミリほどもあるので、食べ物が熱いのやら冷たいのやらはなかなかわかりづらいものです。
極薄のトゥルーティッシュなら、温度感覚は、入れ歯をしているとは思えないほど敏感に伝わります。
歯医者さんに相談してみましょう。
トゥルーティッシュとかいう優れものがあるそうだけど、と尋ねてみてください。
上の歯と下の歯があってはじめて入れ歯なのにその患者さんは、ご自身も入れ歯をしていて、上の歯(総入れ歯です)から、ちょっと診てくれといって来たのです。
見せていただくと、調子が悪いどころの騒ぎではありません。
ストンと外れて落っこちてしまいます。
おっといけないともう一度入れなおしても、口を開けるとまたストン。
落ちてしまいます。
まったく口に合わない、というより、ただあてがっているだけの状態でした。
この患者さんは、下の歯は前歯ばかりが残っていて、奥歯は欠けてなくなっています。
下は入れ歯になさらなかったのかと訊ねると、つくってはもらったが、具合が悪かったので、自分で外してそれっきりだそうです。
これで上の総入れ歯が落ちてしまう理由がわかりました。
下の歯が前歯だけなのです。
口を閉じれば、前歯の部分は噛み合っても、相手のいない奥歯の部分は宙ぶらりんです。
上の総入れ歯は前のほうは圧力を受けて沈み、奥のほうは反対に浮かび上がってしまいます。
張り付いていたはずの入れ歯は、奥のほうから剥がれてしまうわけです。
この患者さんが最初に下に入れたのが、かなり痛みを感じるほど合わない入れ歯だったのでしょうね。
それに懲りたこの方は、私が「下の入れ歯もいっしょにつくらなければ意味がありませんよ」といくら言っても、「いや、上だけ」の一点張りです。
はなから無意味な治療はするわけにいきません。
自分の母親のことを持ち出して、要するにお金を使って入れ歯を入れたって、たいして期待はできないと決めつけています。
けれど、こうストンストン落ちるようになってしまったのでは困るから、一応くっついているだけの物をつくってくれと言う患者さんに、「私とあなたのお母さんを診たお医者さんは違いますよ。
あなたとお母さまも違うでしょう。
絶対痛くないようにしますから、仮の歯を下にも入れて様子をみましょう」と、なんとか上下をセットで入れさせてもらいました。
この患者さんの場合はすでにかなり進行していて、歯の抜けたあとの土手が低くなっています。
歯茎がなくなっている状態です。
上の総入れ歯の様子では、噛み合わせはかなり低く、おそらくは、舌の置きどころもない感じだったでしょう。
痛いといっても、要するに苦しかった。
仮の歯もできるだけ薄くして、違和感を少なく、舌が自由に動かせるように余裕をもたせました。
当座の処置ではありますが、一応は上下の歯を噛み合わせられるようになっています。
本当にいい入れ歯はこんなふうにでき上がります。
上下に仮の入れ歯(トレーニング用義歯)を入れた患者さんは、次の週は用事ができたとかで診察にみえませんでした。
よくあることです。
思いのほか具合がいいので、歯医者は後回しにしてもいいと考えるものです。
2週目には診察にみえたので、「ご自分で外してみてください」と言うと、仮の入れ歯に両手を掛けて、「あれっ」と。
ぴたりと吸い付いて、そう簡単に外せるものではありません。
歯医者と患者さんの心のアプローチがきちんとできなければ、入れ歯作りはたいへんな難事業です。
こうして患者さんに、その気になっていただくまでが準備段階。
ここからが、入れ歯作りのスタートなのです。
患者さんには入れ歯は作れません。
何を当たり前のことをと、まあ、怒らずにお聞きください。
入れ歯を作るプロといえば、当然、私たち歯科医であり、技工師です。
きちんとした入れ歯、患者さんの口に合う入れ歯を、きちんとした作り方で作り、きちんとした入れ方で入れるのは、私たちプロの務めです。
ですが、待ってください。
きちんとした入れ方とは何でしょう。
もちろん強引に患者さんの口をこじ開けて、作った入れ歯をねじ込むことではありません。
仕上げをしたうえにさらに念入りな微調整をしてフィットさせてあげる。
そんな心掛けはいつでももっています。
微調整には時間がかかります。
なじむのに時間がかかるというのではなく、合わない入れ歯に我慢してもらえるようになるまで、というのでもなく、1回作ってそれを入れたからといって、おしまいではないということです。
さて、その微調整です。
いったい誰の判断で、手直しをしていくのでしょうか。
つくる側のプロである私たち歯科医は、手直しの方法は知っています。
入れ歯にした結果がわかれば、どう手直しすればいいかもわかります。
けれども、入れ歯を入れた感覚、そのために口の中がどう変わったのかは、神ならぬ身の私たちにはわからないのです。
当然、どんな微調整がさらに必要なのかも、歯科医にはわかりません。
それがわかる唯一の存在は、そう、患者である皆さんです。
歯科医自身が総入れ歯にしていればともかく、自分で入れ歯をしていない歯科医には、入れ歯が入った感覚を想像することさえ容易ではありません。
実際に入れ歯をしている患者さんこそ、最終調整の指揮を執る、入れ歯を入れるプロなのです。
歯の治療の中でも、入れ歯というのは特別なものです。
第三の歯という呼び方はご紹介しましたが、詰めもの、かぶせものとはわけが違います。
型を採ったとおりに仕上げた入れ歯を入れていただきますが、これはトレーニング義歯という名の、仮の入れ歯だと私たちは考えます。
何回かは通ってきてください。
私たちの最終仕上げを指導してください。
仮の入れ歯を入れた時点で、満足してしまう患者さんが圧倒的に多いのです。
それは実は、満足ではありません。
1回の型採りで、設計図の見直しを試みることなく終わりにしていいのでしょうか。
あなたはともかく、歯は、口は、あなたの体は満足しているでしょうか。
歯の治療、ことに入れ歯をつくって入れるということは、患者さんと歯科医との共同作業です。
つくるプロと入れるプロとの、長いおつき合いが大事なのです。
他人事ではありませんが、あの先生は入れ歯が上手だとか下手だとかおっしゃるとき、入れ歯を入れるのに充分な時間をかけてくださったかどうかも考えていただきたいと思います。
どう考えても、総入れ歯にせざるをえなくなるまでには、かなり長い間、あなたの歯はないがしろにされてきているはずです。
入れ歯を入れるにあたってほんの数か月、時間を割いてもいいのではありませんか。
歯が抜けた、欠けたで隙間だらけになっている患者さんは、残っている歯にもたいへんな無理がきているのはご説明したとおりです。
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